酸塩基平衡の基礎~酸塩基平衡を保つためのしくみ~

Ⅳ 尿pH調節の仕組みと酸排泄メカニズムについて

ヒトでは、通常、尿pHは中性~弱酸性に傾いているが、生理的にはpH 7.40から最大で4.50まで低下させることができる。pHの下限が4.50である理由は、尿細管細胞は尿pH 4.50までしか耐えられず、尿pHが4.50を超えて低下すると、尿中と間質とのH濃度勾配が大きくなりすぎるため、結果としてHの再吸収が起こるためである。
 
また、尿pHの低下が最大限生じたとしても、排泄されるHはわずかな量(H濃度で表すと0.04 nmol/Lにすぎない)で、酸の排泄には不十分であるため、1日に負荷される酸を排泄し、糸球体で濾過されたHCO3を再吸収するためには、滴定酸やアンモニウムイオン(NH4)などの尿中の緩衝物質が不可欠である。しかし、尿pHを血液pHより低く維持することは、直接的な酸排泄だけでなく、滴定酸やNH4の尿中排泄の促進にも寄与している。

緩衝系は酸を一時的に安全な形に変換し、H濃度の変化によるpHの変化を小さく抑える効果はあるものの、Hを排除するわけではない。
そのため、Hを体外に排泄するためのほかの仕組みが必要である。この働きは腎臓が担っている(図5)。腎臓からのH排泄は①HCO3の再吸収、②滴定酸の排泄、③NH4の排泄、④尿pHの低下によって行われている(図6)。


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①HCO3の再吸収
HCO3は糸球体で濾過され、原尿にそのまま流出してしまうため、近位尿細管などにおいて、そのほとんどが再吸収(一旦H2CO3に形を変えたのちに産生)され、80~90%は近位尿細管で、残りはヘンレループの上行脚で再吸収されている。近位尿細管におけるHCO3再吸収メカニズムは図7に示すが、必ず同程度のH排泄を伴っている。


②滴定酸の排泄
酸の尿中排泄に働く滴定酸は、主にリン酸イオンなどの有機酸で、尿中では重要なバッファーとして働いている。尿細管腔に分泌されたHは、HPO42-(リン酸水素イオン)と反応し、H2PO4(リン酸二水素イオン)となって排泄されることで、尿中のH濃度を上昇させることなく酸を排泄することができる。


③NH4の排泄
主に近位尿細管においてグルタミンから生成されるアンモニア(NH3)は、尿中でHと反応してNH4となりうる。
NH4の重要性は、気体であるNH3は細胞膜を自由に透過する一方、イオンは膜を透過しにくい点にある。近位尿細管で産生されたNH3は自由に膜を透過し、濃度勾配にしたがって平衡状態を形成するが、尿細管腔側でHと結合し、NH4となり尿中に排泄される。Hの分泌が増えた場合にも、グルタミンからのNH3の産生を増加させることで、大量のHを尿中に排泄させることが可能である。


④尿pHの低下(Hの排泄)
集合尿細管における酸排泄は、Aタイプの細胞(α細胞)とBタイプの細胞(β細胞)の2種類の介在細胞が関係している。α細胞は尿細管腔側にHを分泌し、血管側にHCO3を供給し、重炭酸緩衝系で消費したHCO3を補充している(図8)。


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前頁の4つのメカニズム(①HCO3の再吸収、②滴定酸の排泄、③NH4の排泄、④尿pHの低下)のうち、とくにNH4の排泄は、酸の排泄量に応じて増加させることができ、最も重要な役割を果たしている。1日に産生される不揮発性酸のうち、約2/3はNH4として排泄される。また、集合管における尿pH低下は、酸の排泄能力としては小さいものの、消費したHCO3の再生も同時に行われるため、重要な仕組みである(図9)。


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糸球体で濾過された血漿中のHCO3は近位尿細管を中心に再吸収される。一方、分泌されたHはリン酸またはNH3で緩衝されて尿中に排泄される。滴定酸は糸球体濾過量により決まるため、体内の酸塩基平衡バランスに関係なく定数をとるが、NH4は不揮発性酸の排泄量に応じて増加させることができ、酸排泄に重要な役割を担っているといえる。
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