step by stepによる酸塩基平衡異常の診断ポイント

Ⅳ アニオンギャップ(AG)


ヒトの体は電気的に中性で、陽イオンの総数と陰イオンの総数は等しい関係にある。ただし、通常はすべてのイオンを測定することはなく、主要なものとして陽イオンはNa+を、陰イオンはCl、HCO3のみを測定している。したがって、その他の少量の陽イオンや陰イオンは、存在するが測定されていない。AGとは、図2に示すように血液中の測定されない陰イオン(主にリン酸イオン、硫酸イオン、有機酸イオンなど)の量であり、正常ではおよそ一定であり、体の酸塩基バランスに参画する有機酸の量(不揮発性酸)を把握する指標となる。AGは以下の式で表される。

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通常、体に負荷された不揮発性酸のうち、H+は緩衝作用によりすぐに消去される。一方で、陰イオンは腎排泄されるまで体内に貯留するため、不揮発性酸が負荷された痕跡としてとらえられる。実際に、AG増加では、主に有機酸イオン上昇や尿中NH4+排泄低下、AG減少は低アルブミン血症が原因となることが多い。
なお、AG増加では、増加した酸のH+はHCO3で緩衝(消費)され、その片割れである同量の陰イオンが蓄積し、その分AGが増加している。そのため、緩衝作用で消費したHCO3は⊿AG(=実測AG-12)で推測できる。AGの増加がなかったとした場合の推測[HCO3]は、実測[HCO3]と⊿AGの和で求められる。

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尿AG

尿AGはあまり知られていないが、AG正常型の代謝性アシドーシスの鑑別では有用である。また、エチレングリコールやメチルアルコール、重金属などの中毒の診断にも役立つ。尿の酸排泄メカニズムでは、NH4+の排泄が重要となるが、尿中NH4+は揮発性であり直接測定することはできない。そこで、間接的にNH4+濃度を測定するために生まれた概念が尿AGである。尿中の測定不能な陽イオンの大部分がNH4+ であることから、尿AGの変化は尿中NH4+排泄量の間接的推定に役立つ。

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尿AGの使い方


血液pHの正常な場合の尿AGは0から+20程度となる。前述のように尿AGはNH4排泄の指標となるので、腎機能が正常なアシドーシス(例:下痢に伴う消化管からのHCO3喪失)ではpHの低下に応じて腎臓からのNH4排泄が増加し、尿AGは負に転じる。一方、腎臓自体に酸排泄障害のあるアシドーシス(例:RTA、保存期腎不全)では尿中NH4排泄を増加できず、尿AGは正のままとなる(図3)。このため尿AGは、AG正常型代謝性アシドーシスのうちで腎臓以外に原因のある疾患と腎臓自体に原因のある疾患の鑑別に使うことができる。

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なお、体液量減少に伴い尿Na濃度の低下した状態(尿Na<20mEq/L)、有機陰イオン過剰負荷時(例:臭素中毒)の場合には、腎臓の酸排泄機構に異常がないにもかかわらず尿AGが正となりうるので注意が必要である。
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